本研究は、不法行為をめぐる基礎概念をめぐって(1)日常的観念、医学専門的観念、法的観念のナラティヴ構造を実証的調査データをベースに解析し、(2)それらが交錯する交渉過程・訴訟過程で生じている相互変容関係と問題を解明し、(3)これら観念の特質と関連性を海外の状況と比較分析したうえで、(4)具体的な制度設計に反映させ提言していこうとするものである。 初年度である平成22年度は、次年度以降の調査研究のための仮説的理論的枠組みの構成と、調査の実施準備を行った。(1)アメリカを中心とする法をめぐるナラティヴ・アプローチに関する文献、(2)医療事故領域を中心に不法行為をめぐる状況を理論的・実証的に分析した文献、(3)我が国の社会学・社会心理学・言語学領域など隣接領域も含めたナラティヴ・アプローチの学際的文献の検討、(4)我が国における医療事故政策をめぐる様々な文献・情報の分析などを通して理論枠組みを構成し、それに適合的な調査のデザインと準備を行った。同時に、調査の実際的な実施準備にも着手した。インタビュー対象となる患者、医療者などにアクセスするため、現時点では、地域的特性も考慮し、東京、神奈川、松山、札幌、沖縄の医療機関において調査実施のフィージビリティについて折衝を行った。また、その機会に、準備的・探索的なインタビューを、協力医療機関の医療者に実施した。 このほか、業界紙等報道記事、公的文書、判例、病院施設の内部文書について、収集を開始している。 以上の成果を踏まえ、次年度以降はパイロットサーベイに着手する予定である。
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