(1) 本研究は、日本中世の裁判関係史料を検討素材として、裁判手続の進行過程において訴訟両当事者が作成した書面(訴状あるいは陳状を主な文書とする)による応酬の内容を仔細に分析することを主たる課題とするものである。(2)法制史学あるいは歴史学の研究領域の中で、中世法に関してこれまでに進められてきた研究の多くは、主に朝廷、鎌倉・室町の両幕府が発した「法」に関する解釈や法源論的研究をはじめ、伝統的な制度史研究の流れを汲みながらも、これをさらに発展させるかたちにおいて司法制度の解明を意図するものといって良いであろう。しかしながら、こんにちの学界にあっては、およそ「法」・「裁判」などに関する前提的かつ基本的理解が広く共有されているとは言い難い状況にある。(3)この状況が生じている有力な原因の一つには、残念なことに多くの研究者の関心が主として「判決」(裁許)の内容に向けられ続けていることが挙げられる。本研究では、この状況を打開するべく、訴訟当事者が現実に主張していた「法」(法規範)あるいはレトリックともいえるものの具体的な中身について明らかにすることを目的とする。(4)本年度においては、こんにちの日本中世の裁判法史研究に係る様々な問題視角がいかなる状況にあるのかを再度点検するために、関係する学術文献を蒐集・整理することから開始した。加えて、以前に調査を実施したものの、その作業が中途に止まっている財団法人陽明文庫所蔵の丹波國宮田荘に関する原本史料群(鎌倉期~室町期)の調査を再開した。
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