研究課題/領域番号 |
22530020
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
西村 安博 同志社大学, 法学部, 教授 (90274414)
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キーワード | 日本中世法 / 鎌倉幕府 / 裁判 / 訴陳状 / 下知状 / 証拠法 / 判決理由 / 庭中 |
研究概要 |
(1)本研究は、日本中世の裁判手続過程において、訴訟両当事者が書面(訴人の作成した訴状や論人の作成した陳状をはじめ、それらに副進された証拠文書を含む訴訟関係文書)により応酬した内容を仔細に検討することを通じて、訴訟当事者が主張の根拠とした具体的な「法規範」の内容とは何か、あるいは、主張する事実の裏付けのためには、いかなる内容の「文書」を、いかなる方法によって活用したのかという、中世法における「証拠法」の問題に関する具体的な理解を得ることを課題とする。(2)本年度は昨年度に引き続き、基本的に「応酬内容」の中から「法規範」・「証拠文書」などを抽出し整理するという作業を継続したが、思いの外その作業が困難を極め、予定した暫定的な意味における分析・検討の作業に入ることが出来なかった。(3)進行させた作業の基本的な内容は、(a)昨年度中に開始した『近衛家文書』第七巻(東京大学史料編纂所架蔵影冩本)に収載される鎌倉~室町期における「訴陳状」および関係文書を中心に、影冩本収載の文書とその原本との対応関係等について、陽明文庫所蔵『貴重文書目録』に基づき調査を進めた。その前提となる成果の一部は、西村安博「近衛家領丹波國宮田荘をめぐる訴訟關係文書について-補遺-」(『法史学研究会会報』第15号、2011年3月、pp.15-38)の中に記している。(b)「東大寺文書」(美濃國茜部荘文書)および「東寺百合文書」(伊予國弓削嶋荘関係文書)等における一連の訴陳状に関する分析に着手した。(c)「応酬」を支える訴訟手続構造の理解に関する再検討を試み、その構想の一部は「鎌倉幕府の裁判における「庭中」に関する若干の問題」(北野かほる教授代表科研費に係る研究報告)および「前近代日本法制史における裁判手続に関する若干の問題-「当事者主義」のあり方をめぐって-」(南京師範大学における招待講演)において報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の目的とする、訴訟手続過程における両当事者による応酬の具体的内容を抽出・整理する作業に時間を要する一方で、本研究課題の基盤を構築するためにかつて取り組んだ科研費「日本中世の裁判における判決および判決理由に関する法制史的実証研究」(研究代表者=西村安博)において得られたデータと、本研究課題における作業から得られるデータとを突き合わせ、補正する作業を同時に進めているからである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題においては、その重要な目的の一つである、訴訟両当事者の応酬内容から、訴訟当事者が主張の根拠としていた「法規範」あるいは「証拠文書」が具体的にいかなるものであったのかを、網羅的に抽出・整理するという作業は、時間を要するものの、引き続き進めていくこととするが、この作業の途中経過を反省し、作業のあり方を改善させていくためにも、とくに、判決の主な理由が「召文違背之咎」あるいは「下知違背之咎」とされた事案や、いわゆる「訴訟費用」の問題に関連する判決が下されている事案に絞って光を当てることによって、判決に至るまでに現れた訴訟両当事者の応酬内容について分析することを試みたい。
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