研究課題/領域番号 |
22530020
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
西村 安博 同志社大学, 法学部, 教授 (90274414)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 日本中世法 / 鎌倉幕府 / 裁判 / 訴陳状 / 下知状 / 証拠法 / 判決理由 / 応酬 |
研究概要 |
(1)本研究は、日本中世の裁判手続過程において訴訟両当事者が書面により応酬した内容に注目した上で、応酬の中で主張の裏付けとされた「事実」・「法規範」・「文書」とは如何なる内容のものであり、これを如何なる意味において提示・活用したのかという、日本中世の法制史研究においては未解明の「証拠法」の問題に関する一定の理解を得ることを課題とする。(2)本年度は昨年度に引き続いて、鎌倉幕府の裁判所に係属した訴訟事案における「応酬内容」に関する分析を進める一方で、裁判手続に関する理解を与えて来た学説の整理・検討を試みることとなった。(3)後者の作業は前年度に行った南京師範大学における講演の趣旨を受けたものであるが、その後の研究成果および展望について「日本中世法制史研究の現状と課題ー裁判手続構造に関する理解をめぐってー」と題する講演の機会を得た。講演の内容および当該「証拠法」研究の有する可能性の問題については、『同志社法學』誌上に「日本中世における裁判手続に関する理解をめぐって」(一)と題する学術論文を寄稿したほか、他一篇において当該研究の展望を論じる機会が与えられた。前者論文の後半部分(二・完)については次年度中に刊行予定である。なお、本研究の副産物としては、2010年11月にParisにおいて開催された国際会議での報告を基にして、日欧の近世~近代における法と裁判をめぐる問題を刑罰のあり方を比較・検討の対象として比較法史な観点から論じた英文による論文をDr. Joerg Wettlauferとの共著で刊行した。(4)次年度には、あらためて「和与」に関する訴訟事案を素材として「応酬内容」を吟味することにより、「私和与」に関する裁判手続上の理解を得るとともに、「証拠法」に関する一定の理解を得たいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の目的とする、訴訟手続過程における両当事者による応酬の具体的内容を抽出・整理する作業に思いの外時間を要する一方で、本年度においてはとくに、裁判手続に関して法制史研究および歴史学研究において与えられて来た理解を整理・検討する作業に多くの時間を費やしてしまったため、当初の「研究の目的」に要求される作業を十分に遂行することが出来ていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題においては、訴訟両当事者の応酬内容から、訴訟当事者が主張の根拠としていた「事実」・「法規範」・「文書」が具体的には如何なる方法で提示・活用されていたのかを究明することをその重要な目的とするものであるが、この目的に係る該当史料の網羅的な検討作業には多くの時間を要するものの、引き続き進めていくこととしたい。この作業の途中経過を反省し作業のあり方を改善させていくためにも、次年度においてはとくに、「和与」をめぐる紛争再発事案にあらためて注目した上で、「和与」の法的効力を認めようとしない当事者の主張が根拠とするものとは何か、あるいは、その際に主張されることのあった「私和与」とは裁判手続の上で如何なる実態を意味し、手続法的には如何なる意味において評価され得るものであったのか、などの観点から検討することによって、あらためて「証拠法」の問題に接近していくことにより、これに関する一定の理解を得て行きたいと考えている。
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