平成24年度は、本研究の最終年度であるため、研究課題についての中心的論点である事業承継税制の意義、政策目的としての正当性、政策手段としての合理性等に関して、これまでに収集した資料等の分析と取りまとめ、研究会における関連分野の研究者との情報・意見交換を中心に研究を行った。さらに、研究対象の中でも重要な位置を占める非上場株式等の納税猶予制度について、平成24年度後期に法改正の動きが具体化したため、それに関する情報収集や背景事情の調査等を行った。既に昨年度から、中小企業の経営者にとって事業承継は数ある経営課題の中のひとつであり、しかも必ずしも優先順位の高い課題ではないとの知見を得ていた。それに加えて、今年度の研究により、事業承継に際して中小企業が直面する課題は、地域や対象とする企業の規模・業種等により多様であり、それゆえに各企業の実情に応じて事業承継を計画的に進めることが重要であるとの結論を得た。経営承継円滑化法および納税猶予制度は、中小企業にとって利用しにくく現に利用度が低いことが各方面から批判されているが、これらの制度の真の問題点は、事業承継を計画的に進めることのインセンティブとして機能していないことであると考えられる。そして、資料の検討により、事業承継税制が、単なる事業の相続に対する減税措置であって、円滑な経営承継のために必ずしも機能していないとの批判は、アメリカやドイツでも同様になされていることも知ることができた。
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