行政上の制裁および誘導の概念が行政法の体系論において有する意味を分析するとともに、それらの概念が行政法解釈上に有する意味について、訴えの利益に関する2つの最高裁判決、すなわち最判昭和55年11月25日および最判平成21年2月27日を素材に検討した。すなわち、最高裁の理解によれば、道路交通法上、運転免許停止処分については、制裁を目的とするものとはされていないのに対し、優良運転者としての免許更新処分については、免許証保有者を優良な運転へと誘導することが目的とされている点で、違いがある。このように、立法の目的・意図を重視する限り、昭和55年最判と平成21年最判との間に矛盾はなく、また、平成21年最判の射程が昭和55年最判の事案に及んで後者の判断が見直されるという関係には、当然には立たない。しかし、制度が実際に果している機能や、処分によって相手方が受ける不利益の内容・性質に着目すると、免許停止処分によって相手方が受ける名誉、信用等の殿損と、優良運転者である旨の記載がされないことによって免許証保有者が受ける不利益とを比較した場合に、前者より後者のほうが大きいとは必ずしも言えないから、昭和55年最判と平成21年最判との間で不均衡が生じていることは否定できない。そこで、免許停止処分が実際には制裁として機能しており、道交法はそれを直接の目的としているとはいえないものの、そのような制裁的効果を通じて間接的に義務履行確保の機能を果たすことも道交法の目的に含まれうることに着目して、訴えの利益を認めることが考えられる。その際、広義の訴えの利益の一環である原告適格に関する行政事件訴訟法9条2項の規定を参考に、相手方が受ける不利益の内容・性質を考慮して、免許停止処分の制裁的効果によって生じる名誉、信用等の駿損について、回復すべき法律上の利益と認めることが考えられる。以上のように、行政上の制裁および誘導の概念が行政法体系および行政法解釈論において持つ意味を解明したことが、当該年度の研究成果である。
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