本研究は、(1)比較憲法学の観点から、アメリカの違憲審査基準とドイツの比例原則を対象として両者が共有していると考えられる「利益衡量」に焦点をあてて、違憲審査基準と比例原則の異同を、①それぞれが有する論理構造、②それぞれが生み出されてきた歴史過程、③それぞれが前提にする権利観、違憲審査の役割についての考え方の違いという観点から分析し、異同を見定めた上で、(2)憲法理論の観点から、両者が共有していると考えられる「利益衡量」について、政治哲学の議論を参考にして権利と利益衡量の関係を分析し、憲法判断過程における利益衡量の意義と限界を考察しようとするものである。本年度の研究は概ね順調に進行した。平成24年度は、第一に、アメリカで20世紀初頭に利益衡量論が台頭してくる背景には、契約の自由を自然権として強く保障しようとしたLocner判決に代表される一連の裁判所の判決にどう対応するかという問題意識があり、それに対抗するために法哲学者のロスコー・パウンドを中心にドイツの自由法運動が生み出した利益衡量論がアメリカに輸入されたことを明らかにし、第二に、憲法上の権利の制約の正当化に関しては、憲法上の権利と対立する利益を衡量するという利益衡量を用いた憲法判断以外に、憲法上の権利を政府の行為の理由づけを統制するものとして理解し、政府の行為理由を判断するという方法が十分ありうることを示し、第三に、第二の憲法上の権利を政府の行為の理由づけを統制するものとして理解する方法も、利益衡量論と同様に違憲審査基準ないし比例原則の審査基準、審査密度を厳格化することで十分現実に機能しうることを具体的な形である程度立証できた。
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