研究概要 |
本研究は,「後期行政国家」の課題に対応するため,行政法理論の基礎概念や諸制度をガバナンスの観点から整理しなおす作業を具体的に進めるとともに,そこで得られた理論仮説を,立法過程・司法過程の経験的調査の範囲で,実証的に検証するという作業をおこなうものである。経験的調査として,国の立法過程の実務的責任者(本省課長級以上の職員)へのインタビューまたは本人による論稿作成を通じて,いわゆる55年体制の崩壊の過程で始まった立法過程の変化(過去10年を対象)を明らかにする。 本年は,そのための作業のひとつとして,行政手続法による行政ガバナンスの実現について,英語文献を公表するとともに,消費者保護行政の立法過程の経験的調査として,消費者安全法,消費用製品安全法につき関係者にインタビュー調査をするとともに,不当勧誘,不当表示,製品安全の欠如の3分野における消費者保護立法が,戦後すぐの時期にどのように形成され,それが消費者庁の設置に伴い所管換された実態を調査した。消費者行政が,産業行政の失敗からどのように生まれ,独立の分野として認識されつつある現状を整理するとともに,そこから得られた「消費者行政」と「産業行政」の区別の重要性と現実の立法過程における混乱とを指摘する論稿(「消費者行政」)を執筆,公表した。また,みずから消費者被害回復のための立法過程にも関わっている。 以上から,行政のガバナンスの視点として,手続や訴訟といった一般的制度だけでなく,事業,産業分野ごとの省庁編成と,それに横串を指す行政庁組織--競争政策,環境政策,消費者保護政策--の設置ということの重要性について,新たな視点を形成しえたものと考えている。
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