研究概要 |
本研究は,「後期行政国家」の課題に対応するため,行政法理論の基礎概念や諸制度をガバナンスの観点から整理しなおす作業を具体的に進めるとともに,そこで得られた理論仮説を,立法過程・司法過程の経験的調査の範囲で,実証的に検証するという作業をおこなうものである。最終年度である平成24年度においては,これまでに行った司法過程や立法過程についての経験的調査を踏まえ,いわゆる55年体制の崩壊の過程で始まった立法過程の変化(過去10年を対象)と,司法制度改革による司法過程の変化の結果,行政法学説におけるアプローチの仕方がどのように変更されるべきかを明らかにした。 まず,取消訴訟の原告適格,及び国家賠償法1条の違法概念という,行政法学説においてもっとも見解が分かれており,収斂しないかに見える問題領域において,「後期行政国家」におけるひとつの収斂方法を示した。それは,行政実体法に対する裁判所の創造的法解釈が,行政国家の固定化を防ぐ役割を果たすという視点から説明できるものである。 また,憲法論を通じた創造的な法令解釈が,やはり「後期行政国家」の固定化を防ぐ役割を果たしうることについても検討した。 さらに,経験的調査をふまえ,立法過程におけるドグマ的思考,司法過程におけるドグマ的思考の存在を仮定して,判例や法律の意味を理解する可能性を探った。 以上から,経験的調査をふまえると,静的な法解釈論とは異なる動的な視点を得ることができ,それは「行政国家」の固定化を防ぎ,行政活動のガバナンスを維持するために,裁判所が創造的な実体法解釈をおこなうことがいかに重要であるか,また現実に日本の最高裁はそのような役割を果たしているとの結論を得ることができた。
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