本年度で最終年度をむかえた本研究の第一の特徴は、憲法学においてはいままで検討されてこなかった知的財産権について、その権利の性質等を踏まえた憲法理論における位置づけを示したことにあります。 とくに、本研究では、知的財産権のうち著作権をとりあげて、上で述べた当該権利の憲法理論との関係を検討しました。著作権とは「創作的表現」に設定された管理権であり、それは、有体物同様の排他的権利であるところに、その特徴があります。著作権とは「特定の形式の表現」に付された排他的権利であり、したがって、当該表現を後続的に利用するものの行為を制約する効果をもちます。本研究では、まず著作権のこの性質をとり上げて、当該権利の設定を表現の自由に対する制約ととらえる視点を提示しました。 つぎに、著作権は無体物である「創作的表現」に設定されたものです。有体物を客体とする財産権は、なにに財産的価値を見出すのかについては、原則として自由であり、有体物の所有者の意思にゆだねられています。これに対して、無体物を客体とする著作権は、なにか著作権の対象になるのかについて、法定されています。著作権法が客体としたものにだけ認められる権利なのです。著作権とは国家行為を通して設定されたと表現に対する排他的権利であり、この枠組のもとで、著作権の対象となった表現から生じる経済的利益は、権利者に帰属する効果をもちます。したがって、著作権は、特定の形式のもとでなされる表現行為に対する国家助成としての側面をもちます。著作権とは、国家による表現助成としての側面をもちつつ、後続表現者の表現行為を規制している。こうした著作権制度の憲法上の基礎づけを展開したのが、本研究の実績の概要です。 本年度は、著作権に加えて、同じく無体物(技術的思想、肖像・イメージ)に関する経済的価値の保護と表現の自由の関係についての研究にも従事いたしました。
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