今年度は、(1)日本の両院協議会制度と(2)ドイツの議院内閣制における宰相権限について研究をした。日本の議院内閣制の大きな特質は、両院において与党が過半数をもたなければ、安定した政権運営が憲法上、困難である点にある。いわゆる「逆転国会」が継続している政治状況では、両院の合意形成は、事前の与野党間の協議が成功すれば、この困難な状況は克服できる。 一方、憲法上、両院協議会の制度が実定化されているが、しかしこの制度は、与野党間の間では、あまり利用されていない。というのも、この制度が、両院の意思の不一致を除去する機能をもたず、むしろ、両院の意思の不一致を確認する機能を内在的にもっているからである。その論証のために、これまでの両院協議会が機能しなかった実例を挙げつつ、制度的問題点を研究した。 ドイツの連邦宰相は、ドイツ基本法65条において「政治の基本方針」権限を有する。一方、日本の内閣法はドイツの当該条文を導入し(1999年)、首相のリーダーシップ強化を目指してきた。そこで本研究では、両国の首相権限の異同に着眼し、ドイツ基本法上の「連邦宰相の政治の基本方針」の権限の範囲及びその源泉について、ドイツ文献を中心にまとめる作業を行った。 特に、連邦宰相の権限である(1)宰相原理、(2)所管原理、(3)合議制原理を分析し、ドイツの宰相デモクラシィーがヴァイマル憲法以上に、基本法上、強化されている点を論じた。もっとも、だからこそ憲法学説では、連邦宰相の基本方針決定権の制約論、その責任の範囲が論じられる必要性があり、その学説の紹介に努めた。
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