25年度は、「『多様な家族』の法的保護を可能とする生命に対する権利及び家族形成権に関する日仏比較」に関して、特にフランスの憲法院による権利保護に関して検討した。フランスはヨーロッパ人権裁判所判決の影響で、非嫡出子相続分差別を定める民法の廃止などを行っているが、憲法上は、家族に関する権利に関しては子どもの保護と社会保障の側面から家族の保護を定めているのみである(1946年憲法前文。しかし、近年、ヨーロッパ人権裁判所から条約違反判決を下されるのを避ける目的で、憲法解釈によって「家族生活の尊重」の保護をおこなうようになっている。その方法は、違憲審査においてヨーロッパ人権裁判所の条約適合性を判断する方法である「比例原則」の導入により、権利を制約する立法に関して制約目的との比例性を問うという方法で、たとえば良心の自由を根拠として同性婚(2013年同性婚法制定)実施に反対する行政処分を、憲法上の平等違反を根拠として違憲としている。 こうしたフランスの伝統的な家族法政からの変化は、人権概念の進展とともに、ヨーロッパ人権条約という国際規範、およびヨーロッパ諸国の法制度という比較法的な影響が指摘できる。そうした観点から、フランスの人権保障における国際人権法(ヨーロッパ人権条約)の影響や条約の国内適用に関して検討した結果、人権保障分野における人権条約と憲法の競合関係において形式的には憲法が優位するものの、人権条約(ヨーロッパ人権裁判所判決)における権利解釈と相互影響関係は継続することが確認された。家族に関する法制度について、国際人権条約は家族の形成に関する自由権としての保護(国の介入の禁止)という面と、社会権として家族の維持の両面を有しており、フランスにおいては国内法制度における人権条約の適用により多様な家族の法的保護の進展が確認された。
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