本研究は、国際的にも国内的にも人権保障制度が構築されつつある現状を踏まえ、憲法の人権保障メカニズム(統治機構)と国際人権条約の人権保障メカニズム(各種国際人権機関)との多層的接合状況について比較法的実証的研究を行い、接合状況の違い(多層性の有無)が人権保障の実効性にどのように影響するのかを究明することを目的とする。とりわけ、本研究では、両メカニズムの接合が統治機構の諸原理に及ぼす影響に着目し、それを議会と裁判所の「対話」的関係として把握する可能性を視野に入れつつ、従来の権力分立モデルに対して、国際メカニズムとの接合を加えた新たなモデルを構築・検証し、権力分立原理の人権保障的再構成を試みることを目指してきた。 平成25年度は、研究のまとめの年として、これまでの研究成果のまとめを行いつつ、成果の発表(論文および国内外の学会での報告)およびそれに関する意見交換、そして、補足的調査を行った。また、補足調査としては、イギリスで開催された議会による人権監視に関する国際ワークショップに参加し、議会による人権保障について知見を得た。さらに、多層的メカニズムをより具体的実証的に論じるための着眼点として、同メカニズムを横断して使われうるうる「比例原則」に着目し、論文を執筆すると同時に、比較法学会におけるミニ・シンポジウム「人権の『対話』-比例原則の国際化を手がかりに」を企画し、ヨーロッパ人権条約とドイツ・フランス・イギリスを比較した。 多層的人権保障メカニズムは、国際人権条約の普及ゆえに可能性は存在するが、実現には多々課題があり、かつ、制度的課題から着手することが有用である。その際、憲法と国際人権条約の関係について、国内法における序列関係からの一義的に設定されるのではなく、動態的現状をプロセスとしてとらえ、場面に応じて担い手の特性が発揮される国家と国際機関の関係構築が有用である。
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