本研究は、比較法的視点で、所得税と相続税の両面から、個人の国境を越えた移動と年金課税のあり方について検討することを目的とする。 平成23年度は、まず第一に、国境を越えた人の移動と課税管轄の喪失についての基礎的研究として、個人及び法人の両面から出国課税にアプローチし、各国の国内法規制とEU法との整合性に焦点をあて、欧州委員会の取組みや欧州司法裁判所の一連の動向を分析した。(第21回関大租税法研究会「法人に対する出国税をめぐる諸問題-EUの動向を中心に-」、2012年4月刊行予定)。 第二に、我が国が直面しているグローバル化と少子高齢化の両面からのアプローチとして、昨年度の研究成果を踏まえ、我が国の年金課税の問題点及び個人の国境を越えた移動と年金課税の議論動向を明らかにした(「年金と所得課税」租税法研究39号で公表)。さらに、我が国において、社会保障と税の一体改革の議論が進行していることに照らし、年金課税の方向性を探った。具体的には、社会保障法、租税法の専門家との座談会における意見交換を踏まえ(「税と社会保障の一体改革を語る」税研157号1-16頁)、同じく少子高齢化と年金の財源調達の問題が深刻であるドイツの議論との比較を行った。(第17回関大租税法研究会「社会保障・税の一体改革と年金課税」、第31回日本年金学会総会・研究発表会。少子高齢化社会における年金と課税-ドイツの経験を参考に-」、日本年金学会誌31号22-27頁で公表)。
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