本年度は,絶対的強行法規(=介入規範)概念について,主として欧州大陸法における判例法理や学説を参照しつつ,その要件等の整理と現代的意義・機能の分析を行い,3年間にわたる本研究の総括を行った。 第一に,絶対的強行法規の要件が,①私法的効力を有すること,②国際的適用意思を有することの2点に集約されることを確認した。 第二に,絶対的強行法規の適用に当たっては,①国際的適用意思の問題と,②空間的適用範囲の画定の問題を峻別して論じる必要があるが,前者の問題がその実質法制定国の意思の問題であるのに対して,後者の問題は実質法と抵触法の協働に拠るべきとの視点を提示した。つまり,後者の問題においては,法廷地が抵触法的観点から実質法制定国の適用意思をどの程度斟酌するかを判断しなければならず,その限りで,抵触法上の関与が要求されるべきとの結論を得るに至った。 第三に,絶対的強行法規が,主として国際契約法の領域で,主観的連結(=当事者自治)の制約要因として機能していることは広く了知されているが,ドイツの従前の裁判例を精査した結果,それに止まることなく,国際家族法や国際不法行為法など客観的連結に拠るべき領域においても,絶対的強行法規の適用が広範に行われていることが判明した。特に欧州における抵触法統一の流れの中で,欧州諸規則中に絶対的強行法規が明示的に規定されるなど,同法規の適用が「通常連結」に対峙する形で「特別連結」として位置付けられ,その存在が特定の法領域に偏らないという意味で,より一般的・普遍的なものとして認識されていることを明らかにした。 第四に,公序則との異動についても,公序則が実質法的正義に立脚し,準拠外国法の適用結果の修正を行う一方で,絶対的強行法規は抵触法的正義に立脚し,準拠外国法の適用結果を斟酌することなく適用を求めるとして,議論の整理を行った。
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