本年度も昨年度同様人権理事会の会期傍聴・調査を行なうことができた(2012年9月の第21会期)。2011年の「アラブの春」という草の根の市民の運動に起因する国際政治環境の変化を受けて、人権理事会はその創設以来はじめて活性化し、人権理事会にとって画期となるかもしれない先例をいくつか作った。そしてそのmomentumは現在も基本的に続いている。しかし、そもそも国際社会の中核的な国際人権保障機関である人権理事会が「重大かつ組織的な侵害を含む人権侵害の事態に対処」する(理事会を創設した2006年3月の総会決議60/251・3項)というその本来の機能を実効的に果たしているか、また果たしうるかという本質的な問題には、未だ明確な解答はない。本年度もかかる問題について一定の示唆を得るべく研究・調査を進めた。 その上で鍵となるのがアナン前事務総長が提唱した2重のアプローチ(dualapproach)である(2006年11月の理事会第3会期へのメッセージ)。これは、特定国・地域の人権侵害事態に対処するとともに、普遍的取り組みを同時に実現するというものである。前者のメカ二ズムの典型が特別手続であり、後者のメカ二ズムが普遍的定期審査である。新設の普遍的定期審査(UPR)については、現時点では基本的に人権侵害事態対処活動とは異なる趣旨のメカ二ズムであると評価せざるをえない一方、人権侵害事態対処機能という点で中心的な役割を果たしているのが特別手続(および、人権高等弁務官、専門家調査委員会)であることを会期傍聴・調査等を通じて確認することができた。今後、かかる特別手続等の役割・機能をさらにいっそう実証的に分析し、国際人権保障総体の中に正確に位置づけるという重要な課題が突きつけられている。
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