私の研究課題は「国際テロ行為の容疑者に関する管轄権の展開とその国際協力に与える影響」である。この研究は①近年の国際テロ行為の容疑者の審理・処罰をめぐる米国の法(管轄権)制度の法的特徴を検討し、②そうした新しい管轄権の制度に関する国際協力の問題を検討することを目的とした。今年度は最終年度に当たるため、研究課題の総括を目指した。詳細は成果報告書に記載するが、以下、簡潔にまとめる。 ①米国のいわゆる「対テロ戦争」において2002年以降に捕捉された何百人ものテロ容疑者はグアンタナモ基地に収容され、2013年現在その多くは引き受ける国家へ送還された。米国本土において刑事裁判の被告人となったのはごくわずかである。また軍事審問委員会における審理も行われている。なお依然として軍事的拘束を受けている者もいる。軍事審問委員会はいったん廃止が決められたが、その後2006年に根拠法が改正された。上訴機関を設けたり、拷問による証拠は認められない等、以前よりは被告人の権利に配慮した手続(管轄権制度)として維持されている。 ②そうであれば国際協力の問題も依然として検討に値すると思われる。国際協力の問題とは、もし軍事審問委員会における審理で国外にある証拠などが必要とされた場合、他国はこの要請にどのように法的に対処すべきかということである。従来の司法機関および警察間の協力の枠組み(国際刑事協力)をそのまま軍事審問委員会に関する協力には適用できない。したがってもし協力をする場合は、従来の制度を修正した新しい制度が必要になるが、その場合に重要なことは何か。近年の欧州での実行などを検討した結果、特に協力のための手続を自国が加入している人権に関する国際条約の義務と適合させることが必要であることが分かった。
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