本研究は、グローバルな「公衆衛生上の危険(PHR)」への国際社会の対応のうち、世界保健機関(WHO)が平成17年に改正し平成19年に発効した「国際保健規則(IHR)」について主に国際法学の視点から実証的に分析することを目的とする。 平成22年度は、次年度以降の研究のための基盤構築として、IHRの改正過程及び発効後の動向について国際法学の観点から分析した。 具体的にはIHRの改正過程の議事録等について国内外の研究者の著作・論文を踏まえつつ整理・分析した。さらにIHR発効後の運用状況や平成21年に発生した新型インフルエンザ(H1N1)の世界的な流行(パンデミック)へのIHRの適用についても、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づく外務省及び厚生労働省での調査を含めて資料収集を行った。 これらの調査及び分析の成果を受けて、連携研究者からの助言を得つつ、IHRに関する論文を執筆した(平成23年2月脱稿。同年4月刊行予定)。本論文では、改正されたIHRの特徴として、1.IHRの対象がPHR全般に拡大されたこと、2締約国の中核的能力等の権利義務が明記され、それらに関する手続等も定められたこと、3.「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」の宣言などWHOを中心として国際社会がPHRに対応するための手続が定められたこと等を示し、それらの内容や背景について詳述した。IHRの国際法上の課題としては、1.「締約国による中核的能力の獲得、2.国内法との関係、3.他の条約との関係4.IHRの不遵守への対応の四点を挙げた。 さらにIHRの各国での国内実施に関する分析のうち、日本国内でのIHRの実施について前述の官庁や国立保健医療科学院図書館等において情報収集し、次年度以降の研究の基礎的調査を行った。
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