民事商事の紛争解決に対する国家利益の介入のひとつの表れは、国際裁判管轄ルールに含まれる専属管轄の定めにより、他国の裁判所による解決を許容しない事項が特定されていることであるとの見通しから、条約および各国の国内法の関連規定をピックアップして比較検討した。その結果、専属管轄とされている事項は、(1)自国法に基づく会社設立の有効性・内部関係等に関する事項、(2)自国内に所在する不動産の物権に関する事項、(3)自国法に基づく知的財産権のうち、登録を成立要件とするもの(特許等)の有効性等に関する事項、(4)登記・登録に関する事項、以上の4つが一般的であり、このほか、自国の天然資源に関する事項などがあることが明らかとなった。これに対して、日本で法案が準備されている国際裁判管轄ルールでは、上記のうち、(1)・(3)・(4)だけを専属管轄としている。この違いをいかに合理的に説明するかはひとつの検討課題である。 他方、国際商事仲裁においては、仲裁付託事項が限定されており、日本の仲裁法では、当事者が和解により解決することができる事項(ただし、協議離婚・協議離縁が認められるとしても、離婚・離縁は除外されている)に限定されている。これは仲裁人という私人に紛争解決を委ねないとの国家意思の表れであるということができよう。そして、このような基準が設けられている趣旨として、比較法的な検討は未了であるが、少なくとも、日本法においては、和解による解決ができる以上は国家としてその解決を独占しようとはしていないとの考え方が背後にあることが推測される。 もっとも、比較法的にみれば(2)が専属管轄とされるのが一般的であるとすれば、それは他の理由により説明する必要があり、仲裁付託適格性の問題を含めて、全体を説明する切り口を見出す必要があることになる。
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