研究課題/領域番号 |
22530050
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
道垣内 正人 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (70114577)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際裁判管轄 / 仲裁 / 専属管轄 / 仲裁付託適格性 / 公序 |
研究概要 |
2013年10月には、この研究費により、シンガポールで開催されたLAWASIAに参加することができ、ADRの最新の動きについて議論をする機会を得た。また、シンガポール国際仲裁センターを訪問して、専門家との議論を行った。また、同年9月には、経費は先方持ちであったが、武漢大学で開催された「アジア太平洋地域における国際訴訟」をテーマとする会議に出席し、「管轄合意に関する条約」をアジア各国が批准することによってもたらせるメリットについて報告をし、議論を行った。 消費者契約及び個別労働契約における消費者及び労働者の保護については、法の適用に関する通則法が、その11条及び12条において準拠法決定の局面について相当に詳細に定めており、このことと対比して訴訟・仲裁におけるこれらの弱者保護の位置付けを検討した。消費者及び労働者に手厚い保護を与えるという法政策はヨーロッパに起源を有し、共同体としての立法作業が進展する中で進化してきたと考えられるところ、国際裁判管轄及び準拠法決定については共同体に管轄が移されるに至るといったかなり急速な動きの中で先進的な取り組みがされ、それが日本の法政策に大きな影響を与えたことが観察される。これに対して、国際商事仲裁の分野では、従来からビジネス紛争に焦点が当てられ、かつ、ニューヨーク条約というグローバルな多国間の枠組みが1958年以来確立してしまっているため、これに変化を与えるような個別の立法上の工夫は条約違反になりかねず、法状態がいわば「凍結」され、わずかに日本で附則という変則的な形での弱者保護が見られるという特殊な状況にあることが観察される。これらの観察は、国家利益の介入という問題に一定のパースペクティブを与えるものとして法全体の構造の研究に役立つものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、訴訟・仲裁への国家利益の介入を、それぞれ国際専属管轄及び仲裁付託事項の観点から検討するものであるところ、すでに、比較法的な観点から、ヨーロッパ諸国において適用されているブラッセル規則やアメリカの裁判例との対比で、日本の民事訴訟法3条の5の普遍性と特殊性を明らかにし、また、仲裁法附則3条・4条の消費者契約・個別労働契約紛争についての仲裁付託適格性の制限・否定の趣旨を分析してきた。 確かに、かつては、日本在住の消費者が外国の金融機関と締結した契約に基づく取引に伴って生じた損害の賠償を求めた訴えや、外国企業に雇用されて日本勤務中に解雇された従業員が地位確認等を求めた訴えについて、契約中に外国裁判所を指定する専属管轄合意条項があることを理由に訴えを却下していたこと(東京地判平成25・4・19、東京高判平成12・11・28など)を考えれば、最近の立法による変化は極めて大きなものがあり、そのことをもたらした背景事情を一つ一つ確認し、諸外国の法制度と比較してしかるべく位置づけて行く作業がほぼ終了したように思われる。したがって、当初の予定の通り、基礎的な作業をようやく終えた段階にあるというべきであり、今後は、これらの素材を的確に分析し、位置づけていくことから、この分野の法構造の全体像につなげていくことになると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
国家法秩序を維持していく上で、いかなる紛争について自国の裁判官でない者の判断を認めないのか(それに反してされた外国裁判や仲裁判断はその効力を自国では認めない)という法政策的決定の問題である。国家は、例えば契約については、日本民法90条のように、たとえ特定の私人の間に拘束力あるものとして形成されるに過ぎない契約であっても、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする」場合には無効とする旨定めている。また、法の適用に関する通則法42条は、個別の準拠法決定規定によって外国法が準拠法となる場合であっても、「その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。」と定めている。それらの法政策と、専属管轄の定めや、仲裁付託事項の制限が軌を一にするものであるのか、それともそれらとは異なる立法上の配慮に基づくものなのかを詰めていく作業を今後行っていく。 また、2014年度は、研究計画の最終年度になることから、今一度全体を振り返り、当初の研究目的達成に遺漏なきことを確認する必要がある。この研究プロジェクトは、国際的な民事又は商事に関する私人間の紛争の解決手段としての訴訟と仲裁に対して、国家の国家法秩序を維持するという国家利益の観点からの介入について考察することにより、国際民事手続法にふさわしいしっかりした体系を構築することにある。その手がかりとして、専属的裁判管轄と仲裁付託適格性に関するルールに着目してきた次第であることから、最終的には、それらの個別の問題を超克した国際民事手続法にふさわしい体系の構築と、その体系との関係で、既存の様々な問題や新たに登場してくる諸問題を的確に位置付け、しなるべき対処を可能ならしめることができるような枠組みを提示していきたい。
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