最終年度である2014年度は、残された論点の研究活動と研究全体のまとめを行った。 ベトナムでの調査では、司法権の独立は図られておらず、最高人民裁判所は、最高人民検察院とならんで、国会の直属の機関として位置づけられていることから、外国企業等が当事者となる場合には、ベトナム国際仲裁センターの仲裁が好まれる傾向がある。しかし、本研究との関係では、ベトナムでは国際裁判管轄について関するルールが明確ではなく、専属管轄事項も定かではなく、また、仲裁付託適格性を制限して、仲裁による解決を認めない事項についても十分な知見は得られなかった。もっとも、こちらからの問題の指摘には敏感に反応し、その関心の高さが窺われた。 そのほか、文献等を通じた研究を進めていく中で、以下のような一応の結論を得ることができた。すなわち、国家の裁判制度にとって、外国の裁判所と、仲裁(仲裁地の内外を問わない)とは、いずれも自国のコントロールが100%は及ばず、これを法秩序に取り込む(外国判決や仲裁判断を承認して既判力等を認めること等)には慎重にならざるを得ない。しかし、それでも、これを自国の法秩序に全く組み込まないことは、法的な鎖国となることを意味し、今日のような国際的な経済等の相互依存法が深化している中にあっては現実的ではない。そのため、外国判決や仲裁を自国法秩序に取り込むにあたって満たすべき要件を設け、また、自国法秩序に相応しい判断内容となるように援助を行うという仕組みを構築している。もっとも、外国裁判所への援助は送達・証拠調べ程度しかできないのに対して、仲裁の中でも自国を仲裁地とするものであれば、仲裁人の選任・忌避、仲裁判断の取り消し等も行っている。この違いが、国際裁判管轄における専属管轄と仲裁における仲裁付託的確性の制限との違いを説明する糸口になるのでないかという一応の結論を得た。
|