本研究の目的は、国家の活動に対する国際法の規制力を十全に担保するための履行確保制度のあり方を分析することにある。この研究のためには、国際法上の義務違反に対する責任制度の運用に照らして、将来的な履行確保制度の構築のためにいかなる国際立法過程を踏まえていくべきかを考察することが不可欠となる。そこで、平成22年度は、今後の研究の前提となる、国家責任法の適用事案の特質と多数国間条約における国家責任条項の制定過程の検討を行った。 研究実績・雑誌論文1では、多くの国家責任法事案において適用されてきた「相当の注意」義務概念を素材として、国際違法行為の認定過程において、何が決定的に重要な要素とみなされるのかを分析した。とりわけ、国際裁判所は、相当の注意義務の適用にあたって、国際義務の要請と現実の国家の行動との間の客観的な不一致だけでなく、特定の事態における国家の行動に責任非難の要素があるか否かも決定的に重要な考慮要因としていることを明らかにした。 研究実績・雑誌論文2では、国連海洋法条約や宇宙条約などを素材として、'条約中の国家責任条項の挿入の際の起草過程を検討することで、そもそも国家責任法が適用されるための基礎について、国家がいかなる法認識を有しているのかの分析を行った。とりわけ、伝統的な「主権」概念と国連海洋法条約などの多数国間条約で規定されている「管轄又は管理」の用法とを比較し、国家責任制度を通じた国際義務の実効的な履行確保を図るためには、国家が責任を引き受けるための条件、すなわち排他的な国家機能の行使という国家責任法適用の基礎が存在しなければならないことを明らかにした。
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