研究課題/領域番号 |
22530057
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山下 昇 九州大学, 大学院・法学研究院, 准教授 (60352118)
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キーワード | 労働紛争処理 / 労働契約 / 中国 / 労働組合 / ストライキ / 従業員代表 / 労働時間 |
研究概要 |
本研究は、現代中国における労働者の権利擁護の現状を明らかにし、中国の実情を踏まえた労働者の権利擁護の方法について研究するものであるが、本年度は、まず、近年注目されている集団的労働紛争の実情とその解決手続について研究を行った。その中で、労働組合や従業員代表制度といった労働者の利益代表システムが十分に機能していないこと、権利紛争(労働協約や労働契約ですでに定められている権利についての紛争)は労働紛争仲裁や裁判を通じて解決がはからられているものの、利益紛争(例えば、賃金の引上げとその額の調整)の調整システムが十分な法整備がなされていないことなどを明らかにした。また、集団的労働紛争の事後的な解決だけでなく、未然の予防のために、労使コミュニケーション制度の整備が、政府の主導の下に進められていることについても研究を進めた。さらに、労働紛争の主な原因である賃金や労働時間に関して、時間外労働やその手当の未払い問題とその法規制を明らかにするために、労働時間・休憩休日・時間外労働の法規制について研究を進め、休憩時間の規制が不十分であること、労働行政による監督があまり機能していないことなどを明らかにした。そして、労働行政部門による労働監督や労働者の権利実現の手段に対する法規定や実態について、研究を進めた。他方で、企業のCSR(社会的責任)や企業外のNPO法人による労働者の権利意識の啓蒙活動については、文献資料や若干の聞き取り調査を行ったところ、現段階では、それほど広がりを見せていないようであることが分かった。しかし、地方による差が大きく、一部の地方では、そうした活動がみられることから、今後、中国全体に広がる可能性はあろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国における集団的労働紛争の実態とその解決手続について、文献資料や聞き取り調査によって明らかにすることができた。また、そうした労働紛争の原因としての労働時間の法規制の不備等および労働組合・従業員代表の機能不全について検討を行った。さらに、労働行政部門の機能と実態について研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、労働行政部門と労働紛争仲裁・裁判所(人民法院)を通じた労働者の権利実現のシステムについて、法律上の強制手段(過料、賠償金等)について研究を進めている。また、中国における労働CSRの取り組みと労働NPOの活動状況について聞き取り調査等を行っている。労働CSRや労働NPOの分野は、まだ中国では十分に活動の広がりがみられない状況であることがわかってきたが、地方によってかなり違いがあるようである。また、政府の働きかけにより、労働紛争の解決や労働者の権利擁護・要求実現のために、企業内の労使コミュニケーション制度の構築を推進している。こうした制度を通じて、大規模な労働争議を予防する取り組みが図られており、この点についても研究を進める予定である。
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