本年度は、中国で頻発する集団的労働紛争(いわゆるストライキなど)に関して、労働組合(工会)の法的位置づけ、実際の機能、紛争解決手続の問題点等について研究を行った。中国の集団的労働紛争は、労働組合のコントロールの外で、突発的に発生しており、法律上も、集団的労働紛争の解決手続が整備されているとはいいがたい。なぜなら、社会主義の建前の下、経済の主体である集団所有制においては、企業の所有者と労働者との間に利益の対立がないことを前提としており、そうした国家の制度的に「想定外」の事象について、法的に制度を整備することは、そうした「想定外」のことを法的に許容することになり、社会主義の建前との矛盾をきたすことになる。そこで、実態として生じる集団的労働紛争については、地方の労働行政がケーズバイケースで対応している。そして、労働組合は労働者の権利保護の機能を果たしておらず、農民工を保護する活動を行うNGOが一部で活動を行っている実態がある。他方で、中国では、紛争の発生及び拡大を防止するため、日常的な労使のコミュニケーションを促進する仕組みの強化に力を入れている。 また、こうした集団的労働紛争の発生の背景にあるのは、法律上明記された労働時間や賃金に関する規定が遵守されていないことが指摘できる。そこで、本年度の後半では、法所定の労働者の権利、特に、労働時間に関する法的保護、時間外労働手当、休憩休暇の法制度について研究を行った。さらには、こうした法違反を犯した使用者に対する法的制裁の仕組み及びその実態についても研究を行い、労働行政の機能についても考察した。こうした考察に当たって、中国の労働事件の裁判例などを参照して、労働契約法や労働法の法解釈の現状についても研究を行った。
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