2010(平成22)年10月に追加的に採択された本研究課題を当年度において遂行する期間は約5ヶ月に限られたため、当初の「研究実施計画」で希望した日独両国における実態調査が実現できなかった。しかしながら、これまで所属研究機関に所蔵されていなかった研究遂行上の不可欠な諸文献の一部を購入できたことにより、わが国の在籍出向関係と相似し比較可能と考えられるドイツ真正貸借労働関係(echtes Leiharbeitsverhaeltnis)を所属機関において従前以上に分析・検討できる下地を構築できたことは、今後にとって大きな意義を有する。 在籍出向関係・真正貸借労働関係は、実務では多用されているものの、「使用者(送出企業)」対「労働者」という通常の労働契約当事者に、労働者が実際に労働力を提供している先である「受入企業」が加わるだけに、三当事者間の法律関係如何やそれに基づいた紛争の法的解決枠組みの構築には、従来さほど関心が寄せられていなかった。本研究課題に対しては、「研究の目的」に記載したように、基本的に、ア・労働契約(法)上、イ・公法的規制としての最低労働条件設定法令上、ウ・憲法28条や労組法をはじめとする労使関係法上、以上3つの分析視角が存在するが、当年度は、アの中でも、上記関係の端緒、すなわち、当該三当事者関係を生じさせる労使「合意」のあり方や使用者がその生成を命令する際の行使要件等について検討するとし、関係資料の探知・収集・咀嚼を行ってきたが、年度末までに具体的な成果を明らかにできなかった。次年度のなるべく早期にその公刊を目指す。なお、「判例研究」に留まるが、在籍出向関係と対称的な三当事者関係とされる労働者派遣について検討した成果を発表した。
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