イギリスでは、2001年にスポーツ分野のchild protection(以下CPと略)の中核機関としてChild Protection in Sport Unit (CPSU)が設立されて以来、スポーツ団体がCPのガイドラインを策定するなど、スポーツ分野でも虐待などから子どもを保護する社会的仕組みが整備・充実されている。本研究は、イギリスでの現地調査等により、イギリスの教育・スポーツ分野におけるCPの法制度の現状や政府・スポーツ団体によるガイドラインの内容等を考察し、わが国における制度構築の示唆を得ることを企図する。イギリスのCP制度については英語・邦語文献ともに数多くの文献が出されている。しかしながら、教育・スポーツ分野に焦点を当て、かつイギリスのコーチング資格認証制度であるUKCCとCP制度との関連研究や教育分野での法学的観点からの研究業績は未見である。また、本研究においてイギリスの教育・スポーツ分野におけるCPについて研究することは、わが国における子ども虐待防止法制度全体のあり方、スポーツ指導者の資格制度のあり方、学校での児童・生徒の性犯罪者等からの安全確保等について再考する契機となりうる意義を有する。 以上の前提に基づき、本年度はイギリスでの学術調査を実施し、ブルーネル大学のシリア・ブラッケンリッジ教授、オックスフォード大学のローラ・ホヤーノ教授と面会し話を伺ったほか、ウェールズ柔道連盟を訪問し、同連盟のCP制度について同連盟の副会長等から話を伺った。これらのうち、ブラッケンリッジ教授から、ユニセフが2010年7月にスポーツ分野におけるCPに関する報告書を出したことがわかった。同報告書では、イギリス、オランダ、カナダ、オーストラリアのCPの制度を中心に詳細に分析している。我が国の大相撲の力士虐待死事件も同報告書で取り上げられていた。そのほか、面接調査により、政権交代の影響で現在制度の見直しが進められていることが判明した。
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