本研究の目的は、オランダの福祉国家改革の文脈において進められている社会福祉行政の「地方分権化」の特徴について、2007年に施行された社会支援法(WMO)の地域福祉政策・行政への影響を分析し、日本の地域福祉改革の示唆の参考にすべき点を見出すことである。 初年度の文献研究では、社会支援法(WMO)制定の背景や同法の意義と目的などを明らかにすることからはじめた。そして、2年目に実施した現地調査を通して、同法の制定が、自治体の地域福祉行政の裁量範囲を拡大するいっぽうで、地域事情の違いから、それぞれの自治体の福祉サービスには政策優先順位が反映されており、サービスに地域差が生じている傾向が見出せた。とくに、これまで長期医療・介護保険制度でカバーされてきた在宅介護サービスのなかから軽介護サービス(家事援助)を社会保険から切り離して同法に位置づけたことは、要介護状態の判定システムも分割することになり、また、一般財源化による給付の権利性をめぐる議論を呼び起こしていることを明らかにした。 以上の考察をふまえて、最終年度には周辺諸国との比較の視点を加えた文献研究を行い、近年のオランダの福祉国家が西欧のなかでも一段と新自由主義的な要素を取り入れた改革を行っている点を明らかにした。「分権化」が地域福祉改革の切り札として重視されるなかで社会支援法が制定されたが、同法における「住民参加」や「地域福祉計画策定」、また「一般財源への軽介護サービスの移行」などは、日本の地域福祉政策や介護保険制度改革をめぐる議論にも共通しており、今後さらに両国の改革について比較の視点から考察することに意義があるといえよう。また、オランダではこの間に、要保護児童への対応や失業者などへの就労促進策などにも自治体の裁量を拡大させており、さらに今後は新法による公的扶助改革が、地域住民の最低生活保障のあり方を変化させるものとみられる。
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