今年度は、最終年度であることから、日本刑法学会第90回大会(2012年5月19日・於大阪大学吹田キャンパス)において「ワークショップ・生体移植」をオーガナイズし、研究代表者の城下が司会を、また研究分担者の山本が「刑法的視点からみた生体移植」と題して報告を行った。さらに、ゲスト・スピーカーとして、移植医で水戸医療センター臨床研究部・移植医療研究室長の湯沢賢治氏にも「生体移植をめぐる医学的・社会的状況」と題した報告を依頼した。両氏の報告のあと、フロアの参加者と活発な質疑応答ならびに議論が行われ、生体移植の正当化根拠、臓器売買罪の保護法益、生体移植の規制のあり方などをめぐって意見が交換された。本ワークショップの概要については、城下が、「刑法雑誌」52巻3号112頁以下に記録を掲載した。 また、今年度は、EU諸国における臓器移植を統括するユーロトランスプラントの生体移植部門(オランダ・ライデン市)を訪問し、インタビューを行った。脳死体を含む死体移植が中心であったヨーロッパ各国においても、臓器不足を主たる理由として、徐々に生体移植の件数が増加しつつあること、生体移植のための統一的なガイドラインは未制定であることなどが明らかになった。同時に、わが国で最近問題となっているいわゆる「病腎移植」の状況を紹介し、情報交換を行った。今後は、こうした海外での動向をも踏まえて、わが国での生体移植をどこまで法的規制の対象とすべきかを検討する必要がある。 なお、以上の学会報告、ならびに海外調査を踏まえた研究論文「生体移植に関する刑法的問題点の整理・検討」を山本が執筆し、「成城法学」82号に掲載が決定している。
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