研究概要 |
本研究の目標は,いわゆる「ホワイトカラー犯罪(white-collar crime)」への法的対応策に関する比較法研究を行なうことである。近年,アメリカにおけるエンロン事件や,日本における西武鉄道をめぐるインサイダー取引事件など,世間の耳目を集める事件が立て続けに起きており,世界各国において対応策が講じられつつある。一例としては,(1)企業犯罪に対する刑事責任の拡大,(2)内部告発者の保護(公益通報者保護制度),(3)犯罪に関わった企業や関係者に対し,広範な「不名誉」に基づく制裁を加えることを認める刑罰規定の改正などである。本研究では,ホワイトカラー犯罪に対する規制枠組みの対応を批判的に検討するとともに,そういった対応が適正手続といった法の支配の諸価値といかに調整可能であるかを検証する。第一段階においては、主に、刑事制裁の脅威が、企業行動の規制や企業の犯罪を制御する手段として有効であるとする考えに疑問を投じた。本研究において特定される刑事制裁に関する重要課題は、選択的起訴の問題、資金に恵まれた被告にかかわるケースにおいて有罪を保証する難しさ、個人というよりむしろ企業に犯罪責任を帰することに関連する概念的課題、刑法のアプローチが企業抑制に対して抑止力を有するとする説を支持する実質的実証証拠の欠如を含む。本プロジェクトの中間結論は、刑法の法令は、刑事責任の適合評価を考慮してというよりも、むしろ企業の不祥事に関して何かをしなければならないという政治家に対する公共の圧力の結果として提案されることが多いということである.
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