研究課題/領域番号 |
22530069
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
南部 さおり 横浜市立大学, 医学部, 助教 (10404998)
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研究分担者 |
藤原 敏 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (20173487)
西村 明儒 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (60283561)
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キーワード | 裁判員制度 / 医学鑑定 / 事実認定 |
研究概要 |
本研究は、裁判員制度における医学的知見の提示方法と、証拠と事実認定者との間でいかなる相互作用がなされ、どのような事実認定が行われたのかを明らかにし、その手続内容の妥当性や改善点につき、様々な資料を活用しながら分野横断的に検討・分析することを目的としている。 当該年度に傍聴した裁判員裁判では、検察官がモニターを用いて法医鑑定の概要と創傷のイラスト、解剖時の写真などを合議体に示し、法医学者の意見書を引用する方式での証拠提示が主であった。 また、複数の児童虐待裁判員裁判例につき、法医学証拠を刑事確定訴訟記録の閲覧によって確認した。正確な法医学鑑定の記載内容よりも、子どもの死体の写真がより裁判員の情緒に訴え掛ける力を持っていたことは明らかであり、いずれの事案においても、求刑にきわめて近い量刑とされていた。 特に注目されたのは、従来殺人罪の適用が躊躇されがちで、身体的虐待に比して量刑も軽かったネグレクトの事例である。大阪地裁での裁判員裁判(殺人罪)では、二児をネグレクト死させた母親に対して懲役30年(求刑無期懲役)の判決が下された。これには、ゴミが散乱した部屋や衰弱死した二児の遺体の写真をモニターで示し、二児が餓死に至った状況を仔細に説明する検察の立証方法が、裁判員の心証に大きく影響したことは疑いがない。従来のネグレクト事件の事実認定との相違について検討した成果は、症例報告論文として、国際学術雑誌に投稿準備中である。その他、法医学証拠の提示方法が量刑に与える影響につき、2つの国際犯罪学会をはじめ、下記「研究成果」において、それぞれ詳細に報告を行った。また、医療者・一般市民を対象とした各種講演会、マスコミ取材への協力、訴訟戦略に関する法曹への助言など、様々な形での成果の活用・地域貢献を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
各種講演会や学会発表を積極的に行うことで、予想以上に多くの医学専門家や児童保護実務家、司法実務家との情報交換や連携の機会を持つことができた。また、初年度とは異なり、裁判員裁判が常態化してきたことや、公開された情報量が当初の予想に反して多かったことから、豊富な資料に基づき、非常に多角的な視点で裁判員裁判の実態を明らかにすることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
児童虐待死事件に対する医学証拠の提示方法と事実認定の変遷についてまとめ、医学的知見が争いとなる、いわゆる「乳幼児揺さぶられ症候群」刑事事件については国際学会Twelfth International Conference on Shaken Baby Syndrome/Abusive Head Trauma(ボストン、9-10月)でThe findings of fact and the roles of medical evidences in Japanese criminal cases of SBSとして、ネグレクト刑事事件については欧文論文として、それぞれ報告を行う。 また、国内司法実務家・法律家・法医学者に向けて、日本犯罪学会総会および同学会機関誌などにおいて成果報告をかねた学術報告を行う。あわせて、実際の児童虐待裁判員裁判の司法実務への医学的助言・情報協力を行う。
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