本研究は、高齢社会の下での遺産承継のあり方を、主にドイツ法の検討を通じて、同様に高齢社会の進行するわが国の法制度のあり方をも含めた法的問題の解決に資することを目的としている。研究申請の時期にはドイツで相続法改正の議論が進行し、法改正の作業が進んでいた。ところが、2009年の年末に法案が連邦議会を通過し、2010年の始めから施行されるに至った。その結果、当初の研究計画であった相続法の改正に対する学界・実務からの一応の提言があった2005年のドイツ法曹大会以後の法改正論議の検討とともに、改正法の内容の検討を行った。その重点は、(1)遺留分剥奪事由の現代化、(2)介護給付を寄与分として承認する要件の緩和、及び、特にわが国の法制度との関係では、(3)遺留分補充請求権の猶予の拡大、(4)遺留分補充請求権の消滅時効を10年から10年の間毎年10%ずつ漸減させるという点にある。さらに、当初の計画通り遺産承継に関する予防法学的措置(特に、先取りした相続[vorweggenommene Erbfolge])の検討を行ったが、法改正を契機とする新しい措置が行われ始めたというよりも、従来の措置を側面支援する法改正であろうという一応の結論を得た。以上の研究成果は、一部は後述の業績(藤原正則「第5章 ドイツ法遺産承継と信託的譲渡」新井誠他編『信託法制の展望』(日本評論社・2011年)、及び、現在執筆中の藤原正則「二〇〇九年のドイツ相続法の改正-特に、遺言自由と親族連帯との関係で-」北大法学論集掲載予定)に公表又は公表予定である。
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