本研究の目的は、消費者のための市場秩序を法政策学的観点から形成するための理論モデルを構築し、それを立法的提言にまで結びつけることにある。そして、研究の最終年度に当たる本年度は、これまでの研究成果をまとめ上げる業績を公表し、また個別的な問題に関する判例評釈を執筆した。すなわち、 まず、本研究科を拠点とするグローバルCOEプログラム『多元分散型統御を目指す新世代法政策学』が主催した国際シンポジウム「消費者法における規制とエンフォースメントの多元性」において、「消費者法における私人のエンフォースメントとしての団体訴訟」と題する報告を行ったことは、前年度の「研究業績の概要」にも記したとおりであるが、これを同名の論文として公表した(新世代法政策学研究15号241-252頁)。同号では、このシンポジウムが「特集」として掲載されているが、極めてかみ合った議論がされている。 次に、個別的な問題ではあるが、消費者法にも関連する判例に対する評釈を執筆し、公表した(契約締結前の説明義務に関する後掲評釈)。これは制度論だけでなく、個別的な問題にも目を向ける1つの契機となった。 なお、前年度の「研究実績の概要」でもふれたとおり、この研究プロジェクトを通じて、問題関心は既に狭い意味での消費者問題から、より一般的な問題に移りつつある。具体的にいうなら、この1年間の研究の深化から、焦点は「撤回権」に絞られてきた。「撤回権」については、近時、消費者法の分野で脚光を浴びているが、民法550条ただし書を見れば分かるように、民法の一般理論にも通底する問題である。今後は、本研究プロジェクトで得た知見を「撤回権」に関する研究にも活かしていきたい。
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