平成22年度の研究は、わが国倒産法制における裁判官の位置付けについての歴史的考察と、アメリカ連邦破産法の下での破産裁判官の裁量権についての現代的議論の調査・分析という二方向に重点を置いて進め、後者の比較法的考察を前者に活用した研究業績や研究報告として具体的に結実した。 前者については、衆議院法務委員会議事録等の立法資料や、法案作成に密接に関わった梅謙次郎博士や加藤正治博士の著作等をてがかりとして明治、大正、及び現行の三代の倒産法制を、その時々の経済・社会の状況とも対照しつつ考察した。わが国倒産法制における倒産裁判所の役割に着眼した研究そのものがこれまでほとんどない上に、その歴史的変遷や経済・社会情勢との対象といった分析の視点は研究代表者独自のものであるといってよい。また後者については、Rechael M.Jacksonの論文を端緒として最近の学術論文を調査し、その過程で、アメリカ連邦破産法やその原型である英国倒産法の立法史やエクイティとコモンローの融合についても研究の射程が広がり、アメリカ法上の破産裁判官の位置付けを考察する新たな視点を得た。 以上の研究成果は、東北大学の紀要である雑誌「法学」への投稿論文の形にまとめ、また、ここで得られた知見をベースとしつつさらに実験的な仮説に発展させたものを、仙台地方裁判所主催管財人等協議会における研究報告として公表した。このほか、今年度に発表した二つの判例評釈には、今年度に実施した研究成果に基づく独自の視点が存分に生かされているといえる。さらに、図書の分担執筆分では、本来今年度末刊行予定であったが別の執筆者の入稿の遅延のために刊行が遅れているが、依頼されたテーマに則って破産裁判所の裁量権のあり方について私見を打ち出したものであり、本研究課題を進める上で得てきた知見に基づいている。
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