本研究の目的は、金融商品において複数の事業者が協同して役務提供する場合に、損害が発生したときの各当事者の損失負担について、諸類型をいくつかの要素を元に分析しつつ、類型に応じたあるべき責任体系を考察することである。22年度の検討状況は、以下のとおりである。 第一に、実際の類型の抽出については、当初から想定していた(1)海外で有価証券投資を行う場合のカストディ、(2)証券投資信託に加えて、(3)資産管理の専門信託銀行に再信託を行うマスタートラスト、(4)信託受託者、アセットマネージャー等が協働する不動産流動化スキーム、(5)資産運用機関が投資ファンドを購入するファンドオブファンズについても射程に入れて検討を進めることとした。 第二に、投資信託における責任分担については、投資信託の法的構成を調査し、判例(東京地判平成21・6・29金判1324・18)を分析した。判決は投信委託者と受託者の役割分担から責任を導くのではなく、信義則上の情報提供義務違反があったとして投信委託者の責任を認めたが、このような情報提供義務、安全配慮義務は事業者が協働する場合に適用される共通の原則として解されよう。 第三に、理論面については、タテ型(委託型)スキームにおいて、事業者が事務処理を委託した者の行為によって生じた損害の責任を負うかに関して、民法におけるこれまでの履行補助者の過失理論の資料を渉猟するとともに債権法改正での代理の復委任における責任関係、自己執行義務との関係等を調査し、考察した。現在の有力説は、債務者が委託された者による損害発生リスクを引き受けたか否かの契約解釈によるというものであるが、より判断容易なメルクマールが見いだせないかを検討している。結果として、請負的な結果債務と、委任的な手段債務に分けて、後者に関しては自己執行義務が課されるが、それが解除された場合には、責任も免除される構成を検討している。
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