現代では、金融商品において複数の事業者が協働して役務提供することが当初から予定されている場合が多い。本研究の目的は、そうした場合に一事業者の行為から損害が発生したときの各当事者の損失負担について、類型を分類した上で、各類型に応じた責任体系を考察するものである。例えば、事業者Aと事業者Bが協働する金融商品をCが購入した場合に、Bの行為が原因で損害が発生したときに、CはAに対して損害賠償できるか否か、AとBの損失負担割合をどう考えるか等である。 金融商品の仕組みは種々ありうるが、本研究では信託をベースにした。そして協働する仕組みを事業者(A、B)が直接Cと向き合うもの(ヨコ型)と、CはAと向き合い、AがさらにBに役務を委託するもの(タテ型)に分けて検討した。 ヨコ型はさらに、投資信託や投資顧問付特定金銭信託のような受託者の他に指図者がいる指図者型と、協働する事業者が皆受託者になる複数受託者型に分類できる。これらにおいては、事業者間の損失負担割合や対外的取引の責任の問題が主要テーマとなるが、それらを分析し、論文として発表した(「職務分担型の信託における責任」(富大経済論集58巻1号23頁以下)。 タテ型については、受託者が受任者に信託事務処理を委託する形になるが、受任者の事務処理によって損失が発生した場合の受託者の責任、および受任者が受益者に対して直接責任を負うか否かが問題になる。信託法において受託者は受任者の選任・監督においてのみ責任を負うとされているが、この根拠を改めて考察し、受託者には自己執行義務および善管注意義務が課されており、その手段債務としての性格からくるものだと分析した。検討結果は近々論文として発表する予定である。
|