本研究の目的は、近い将来に実施されるものとして準備が進められている民法(債権法)改正(近時は、民法(債権関係)改正)において、消費者にかかわる規定がいかに扱われるべきかを検討しようとするものである。平成23年度は、研究計画に従い、平成22年度の検討結果を踏まえ、比較法の検討を行った。具体的には、民法改正について従来から十分な比較法の実績があるドイツ法、フランス法等のヨーロッパ大陸法ではなく、英米法からの新たな示唆を中心に検討した。 本研究では、従来の、適用対象を限定した消費者法規定が適用対象を限定しない「一般法化」されることについて着目している。たとえば、消費者契約法では、消費者と事業者との間の契約であるという理由で、一定の当事者間格差を前提とした規定(法理)が適用になるが、その一部の規定が適用対象を限定しないよう改正されようとしている。他方、英米法には、「非良心性法理」という法理がある。そもそも明示的に消費者保護の法理だとはされていないものの、古くから消費者保護の法理として発展してきた。この法理が1970年代ころから事業者間取引についても問題とされるようになったが、それに伴い、この法理の適用要件が曖昧となっていき、当事者としては、この法理は裁判で主張してみなければ結果が分からない法理として、訴訟では敬遠されるようになってしまった。以上のような知見を得て、消費者取引に限定されてきた規定を一般法化する場合には、以上のような危険性があることを指摘し、法改正に慎重さを求める論稿を発表した。また、これを受け、近時の最高裁判決事例において「一般法化」をシミュレートする論稿を発表した。これらの論稿により、当初の研究計画に記載した「対等な当事者の問題を想定するか、格差ある当事者間の問題を想定するか」という問題点の重要性を明らかにできたと考える。
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