本年度は、3つの方向で成果を得ることができた。 1 日本家族<社会と法>学会第27回学術大会シンポジウムにおいて「同性パートナーシップの法的課題と立法モデル」と題する報告を行った。本年度の研究が始まってから報告の要請があったため、研究実施計画の実現と連動させ、ヨーロッパにおけるパートナーシップ制度の比較を行った。これから行っていく研究のために婚姻の位置づけに関する2つのモデルを提示した。 2 日本法における婚姻の意義について、判例を素材に多角的な検討を加えた。(1)300日問題における婚姻と嫡出推定の問題、(2)非嫡出子の相続分における婚姻の保護の意義、(3)婚姻している性同一性障害者の名の変更の許可での婚姻保護の意義を、具体的な判例をとおして検討し、判例評釈を発表した。最近の判例をもとに、判例における婚姻概念を探る手がかりをつかむことができた。 3 婚姻を行う当事者の性別を考える際に性同一性障害者の性別変更の要件と婚姻の交錯領域について、ドイツとオーストリアの状況を検討し、GID学会のシンポジウム「特例法の現状と問題点」において「特例法における性別変更要件の見直し」を報告した。性別適合手術の必要性への疑問という日本においていまだ示されていない観点から比較法的報告を行う予定であった。しかし、東北地方太平洋沖地震のため学会は6月に延期された。 このように今年度は、学会報告の要請を受けたため、それに合わせた研究活動とならざるを得なかった。したがって、研究実施計画にあるオーストリア法の研究は、登録パートナーシップ法よりも、性同一性障害者の性別変更と婚姻との関係から考察した。
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