研究課題/領域番号 |
22530094
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
山口 亮子 京都産業大学, 法学部, 教授 (50293444)
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キーワード | 養育費 / 離婚 / アメリカ法 |
研究概要 |
アメリカ合衆国テキサス州ベア郡(Bexar County)の養育費裁判所を調査した。アメリカでは連邦法による養育費履行制度に基づき、各州及び各郡で立法・運用は異なる。中でもテキサス州は養育費の回収率が良く、養育費執行に係る任務は他州が行政局の管轄であるのに対し、州の司法局(Office of Attorney General=OAG)が行っている。そしてベア郡のみが養育費裁判所を設けている。父母の離婚時にChildren's Courtで養育費の決定が下され、それが履行されなければ監護権者はOAGへ行き、OAGが養育費裁判所に申立てを行う。養育費の再決定、変更、履行命令を扱う当裁判所ではOAGの検察官が申立人となるが、審理では父母双方の審問が行われる。裁判官は義務者の不履行に対し裁判所侮辱罪(Contempt of Court)を命じ、履行するまで刑務所へ入れることができる。これは日本の間接強制と類似しているが、アメリカでは収監が認められており、実効性を上げている。この判断は裁判官の裁量次第であるが、特にベア郡の裁判官は強制力を重視している。それは、養育費未履行理由が経済的困難性だけではなく、元配偶者への嫌がらせ、再婚、子どもへの無関心等であるからであり、裁判官は義務の履行のために刑事的強制力を支持しているのである。近年テキサス州では43%の子が未婚女性から生まれ、10代の妊娠の増加が社会問題となっているが、OAGが養育費政策に責任を負い、養育費回収実務まで行っているのは、子どもの養育費問題がもはや州(国家)及び社会の取り組むべき課題であるからである。わが国は、家族の問題を私事として扱い国家が介入することが制限されているが、子どもが身体的・経済的共に犠牲となっている現代で、その正当性はもはや崩れてきている。養育費に対する他国の政策及び理念は重要な参考課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、アメリカ合衆国のみならず、ヨーロッパの制度も研究することとしていたが、すでに先行研究も多数あり、本研究ではアメリカ法の研究だけでも膨大かつ重要であることが分かってきた。本研究の独自性を出すために、今後日米の法制度を支える思想・理念を検討すること力遁要であることが、これまでの研究により明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、日米の母子家庭を取り囲む社会状況、社会保障制度、そして法制度を概観してきた。そこで、新たな法制度を構築するに当たっては、法制度を支える思想・理念を検討することが重要であるため、これまでに得た知見をもとにアメリカ法を深く追求していくと共に、アメリカも批准している子どもの養育費に関するハーグ国際条約におけるアメリカの議論および各国の議論を調査することにより、新たな立法が作られる時の過程を調査することも有効である。
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