1 前年度までの研究成果をふまえ、本課題を含むこれまでの医療契約論研究のすべてを纏め(来年度科研費の学術図書の刊行助成に応募を予定している)、その成果を日本私法学会で発表し(後述研究発表参照)、それに基づき博士学位請求論文の準備を行った(来年度提出予定である)。内容としては、前年度までの既発表論文(過年度実績報告書等参照)に、学会報告と関連諸研究をふまえて加筆し、補足すべき部分を新たに加えて、編成したものとなっている。 2 本年度新たに補足した部分は、以下のとおりである。(1)典型医療契約類型の定立作業の底辺の形成に寄与し、また、その完結の反射を受けて確定しうる研究との位置付けで、委任契約と医療契約の関係をあきらかにした。その結果、医療契約では相当数の委任規定が理論的な連続性をもって妥当するが、他方、本質的な意味を持つ要素において委任契約から分岐すべき固有の特性を有している。さらに、財産管理関連規定の実際の適用頻度の低さと、医療契約への公法規範の介入が、両類型の実感としての距離を遠ざけていることが判明した。加えて、(2)近年の民法(債権関係)改正論議による上記関係性の変化の可能性(以上、後述研究発表参照)、(3)ドイツの「患者の権利の向上のための法律」における医療契約に関する条文、そして(4)消費者契約や福祉契約等をめぐる近時の法状況を調査し、それぞれから示唆を汲み取り研究内容をアップデイトした。 中心的部分を占める(1)は、医療契約を民法の伝統的な契約各論体系のなかに組み込む重要な意義を有している。
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