研究課題/領域番号 |
22530101
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
横島 重信 山形大学, 理工学研究科, 教授 (70554947)
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キーワード | ダブルトラック / 無効の抗弁 / キルビー判決 / 侵害訴訟 |
研究概要 |
22年度までに抽出した平成12年4月11日のキルビー事件判決以降、22年度末までにされた特許侵害訴訟についての全判決文(855件)の内、特許法104条の3の抗弁がされた案件(平成16年法改正以前に無効の抗弁がされたものを含む。以上をまとめて、以下「無効の抗弁」という。)が353件(約41%)であり、その内の半数以上である200件について、裁判所が特許に無効理由が存在し、その権利行使を認めない旨を判示し、無効の抗弁を認容していることが明らかになった。 23年度には、上記353件について各判決文における上記抗弁についての判断を精読し、争点になった無効理由の分類(新規性、進歩性、記載要件等)、各無効理由における判断の傾向を分析すると共に、判決時期の推移による変化を調査した。 その結果、無効の抗弁がされた案件のほとんどにおいて、被告は複数の無効理由を主張する一方で、判決において(特に、無効の抗弁を認容した判決において)は、8割以上で“進歩性欠如(29条2項)”が事実上の論点であったと分類された。また、その他で論点とされた無効理由としては、“分割要件違反(44条)”、“補正要件違反(17条の2)”が挙げられた。 この結果は、記載要件(36条等)に関しては、特許庁と裁判所とにおいて判断の相違が少ないことを示している。他方、進歩性に関する判断については、侵害訴訟において有力な公知文献が提示され、これによって進歩性が否定されたものの他、裁判所における進歩性の判断自体が、特許庁における判断と大きく相違するものが散見された。また、特に裁判官毎の傾向の相違や、判決の時期によっても判断の傾向に相違が見られたことから、侵害訴訟において高い割合で無効の抗弁が認容された理由として、裁判所における進歩性の判断が未だに安定しておらず、充分な妥当性を有するに至っていないことが挙げられると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、「侵害訴訟に耐えない特許」が高い割合でされる、いわゆるダブルトラック問題の原因の解明と改善策の提案を目的として、現在までの研究を行ってきた。 一方、ダブルトラックに起因して、裁判所と特許庁での食い違った判断がされることを防止するため、侵害訴訟の判決確定後に特許庁の審判でされた審決は、当該判決についての再審事由にされない旨の法改正が行われた。そして、この法改正を受けて、裁判所における無効の抗弁の審理自体が変化したことが指摘されている。 このため、本研究の完成には、上記法改正の影響を考慮することが不可欠となった関係上、現在までの達成度が低下した。
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今後の研究の推進方策 |
侵害訴訟の判決確定後に特許庁の審判でされた審決を、当該判決についての再審事由にしない旨の法改正を受けて、侵害訴訟における特許無効の判断は、事実上、裁判所のみが行う事項となり、ダブルトラック問題は一応の解消に至った。 しかし、依然として、特許権の付与は特許庁の専権事項であるのに対し、侵害訴訟における権利の有効性を裁判所のみが行う現在の制度は、権利付与の際の判断と、権利の有効性の判断が別の観点で行われる新しいダブルトラックであって、特にユーザーからみた特許権の安定性は必ずしも向上していないと考えられる。 このため、今後は、現在の制度において、特にユーザーからみた特許権の安定性を向上するための改善策の提案を目的として、引き続き裁判所における特許の有効性に関する判断を調査し、提言を行っていく。
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