平成23年の特許法改正により、特許権等の侵害訴訟の判決の確定後に当該特許権の無効の審決や訂正の審決が確定した場合であっても、当該審決の確定が確定した判決に対する再審の事由とならないこととされた。当該改正により、確定した特許侵害との判決がその後に覆ることがなくなり、侵害訴訟で勝訴した特許権者に新たに発生する経済的リスク(つまり、獲得した賠償金の返還請求等)が解消される点で侵害訴訟のリスクが軽減される等、特許制度の安定性を高める点で一定の効果が期待される。 一方、当該改正の趣旨の一部に「再審事由とならないことで、侵害者とされた側による新たな無効審判の請求が抑止され、特許権の安定性が向上する」ことが挙げられた。しかし、事業の継続を望む事業者であれば敗訴後においても特許を無効とする利益が存在し、当該効果は希薄であると思われる。そうすると、当該改正の効果は当面の特許権者の経済的リスクを解消するのみであって、裁判所と特許庁の両方が特許の有効性の判断主体となることによるダブルトラック問題自体を解消するものではないと思われる。 つまり、本研究においては、判断主体の違いによって特許の有効性の判断に相違を生じる原因について検討を行ってきたが、上記改正は判断の不安定に起因する不利益の一部について、「ちょっとだけ」特許権者の側に救済を与えたのみであり、依然として判断主体の違いに起因する特許権の不安定性は残存していると考えられる。 本年度に行った法改正による影響の評価は、サンプル数が少なく、当事者の慣れもすくないため、一定の傾向を見出すには至らなかった。しかし、産業の手段として特許制度が活用されるためには、広くユーザーの納得性を獲得し、尊重される必要があると思われる。このため、今後も判断主体によって特許の有効性の判断に相違が生じる原因を検討し、安定した特許制度のための提言を行いたい。
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