本研究課題に関する平成24年度の研究実績は以下のとおりである。 第一に、本研究の分析視角のさらなる精緻化を図るべく、ひき続き都市社会および居住区の公共財・準公共財の管理およびガバナンスに関する思想体系の潮流について知識を深めるとともに、本研究のキーワードである「市民社会」について、同概念が中国の地域研究の中でどのように扱われてきたかを、中華民国期の政治社会を対象とした文献も含め整理した。 第二に、中国都市部居住区の公共財・準公共財の管理および住民自治の過去・現在について幅広く文献調査を行った。特に今年度は、下記アンケート調査のデータを分析するに不可欠な「単位」社会の遺産について理解を深めるべく、建国初期の都市政策にまでさかのぼって、文献を読み進めた。 第三に、平成23年度に万鵬飛・北京大学政府管理学院副教授の協力を得て実施した、北京市朝陽区の高家園社区および東大橋社区の住民に対するアンケート調査(サンプル数:各社区108サンプル、計216サンプル)について、得られたデータの整理・入力作業を行い、コード・ブックを作成した。同データの初歩的分析からは、かつての「単位」住宅においては、(1)党支部・社区居民委員会の指導の下で業主委員会(住宅所有権者委員会)が設置されるも、それは必ずしも住民から認知されず形骸化している、(2)社区居民委員会が依然として絶大なる信頼を得ている、(3)住宅小区内の人間関係はかなり希薄化しつつある、等の傾向が明らかとなった。これらの結果は、以前北京市のニュータウン(「商品」住宅)にて実施した住民調査の結果とは大きくかけ離れており、住宅の性質/世代によって、住民がコミュニティのガバナンスに求めるものに著しい差異があることが改めて確認された。
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