本年度はまず、過年度の作業で政策言説に顕著な変化を確認した1990年代半ばから2000年代初めの時期を念頭に、超国家レベルと国家レベルでの政治過程を分析した。 超国家レベルについては、前年に続き、1990年代の欧州審議会における政策言説の変化に注目した。昨年度、北部ヨーロッパ諸国の実務家・専門家を中心とする国際的な人的ネットワークが1980年代に確立したことを明らかにしたが、今年度は、その場への関係国の国内事情を直接的な契機とする政策内容の重要な入力を確認するに至った。 またイギリス政府の施策を事例とした国家レベルの動きでは、ブレア政権第二期の中盤に生じた政策言説の変化がとくに注目され、過年度の分析で、結束にかかわるこの時期の同国の言説が集団に対し個人を強調する方向へと顕著に変化したことを確認している。本年度はこの変化をもたらした政治過程へと分析を進め、その結果、主要政党に対する市民の不満を新興の右派勢力が吸収する傾向の生じるなか、その際に用いられる個人を強調する言説に対抗すべく、与党労働党からも中道左派の観点の個人主義が強調されるようになったと推察されるに至った。 これらの知見を得る過程で、西欧各国にて資料収集を実施した。この現地調査は年度前半にて終了の予定であったが、作業過程で重要な実務家の連絡先を入手できたため、学内研究費からの支出により再度渡航し(11月)、追加で聞き取りを実施した。 年度後半は、研究全体での超国家、国家、自治体の3レベルの検証をもとに、民族・文化イシューの主流化における政策言説と政治過程の連関について理論的考察を進めた。そして、当政策分野では国家レベルの言説が与える影響が相対的に大きく、超国家レベルの政治過程にも影響する傾向が見られること、これに対し、自治体レベルの言説は国家レベルと関係しつつも、独自の展開を見せる傾向があるとの見方に達した。
|