シュンペーターが予期した資本主義末期の政治状況、イデオロギー状況に関して、「無媒介性/直接性への回帰」というキーワードでもって考察を進めた。その際、とりわけ参照項として着目されたのが、マルクスのボナパルティズム分析(『ブリュメール18日』)である。そこでは、①資本主義が自らを進展させてゆくための前提である商品群の差異がもはや首尾よく産出されなくなったとき、あるいは産出されにくくなったときに醸成されるイデオロギー状況、そして、②マルクスが19世紀フランスに見た表象/代理システムの崩壊と一者(=ルイ・ボナパルト)による無根拠かつ極端な政治的動員、という二つの問題系が相互に連関するものとして想定されている。すなわち、資本主義の危機は、表象/代理システムとしての貨幣システムの構造的危機を土台とするが、それは、政治的には代表制/代議制の危機として、他方、社会的には商品群によって表象される差異の体系に還元されない「無媒介性/直接性」の盲目的な希求として現象するのである。シュンペーターは終生、マルクスへの共感と理論的親和性の認識を隠さなかったが、自身が自覚するところを越えて、彼の資本主義社会論は、資本主義経済分析の面のみならず、政治・社会論の面においても、マルクスの分析に接近していることが一定程度、確認され得た。今回の研究によって、シュンペーター社会経済学が提出した諸概念、とりわけ、イノベーション、起業家の地位、新結合等が、実は経済外的なものでもあること、したがって政治的諸概念への翻訳が可能であることが見いだされたが、今後はさらにそれを進展させ、個々の概念分析を精緻化させることで、個別に分離された政治学でも経済学でもなく、あるいは「社会経済学」でもなく、あらためて「政治経済学」の射程が検討されなければならないだろう。経済の動態分析は、政治のそれ、つまり政治過程論でもあるのだ。
|