2007年大統領選でN・サルコジが有権者の圧倒的な支持を得て大統領に当選した。サルコジは過去の政治や経済社会モデルとの「断絶(rupture)」をスローガンに掲げ、対抗候補である社会党のロワイヤル候補を圧倒して勝利した。何故、サルコジはかくも国民の期待をかき立てたのか、この「サルコジ現象」を解明することで、フランス社会で生起している変化と、それを反映してフランス保守の内部で進行しつつある変容を考えてみたいというのが、本研究に取り組むにあたっての問題意識であった。 そのような視点から研究に取り組むことになったが、追加採択のため1年目の研究期間は短かったが、高橋進編著『包摂と排除の比較政治学』に書いた論文「揺らぐ『平等と連帯』の社会-フランス政治の変容と社会モデルの危機」を土台に、フランス社会モデルの変容について書かれた2冊の英語と仏語の文献を通じて、フランスの経済社会の変化と政治の変容、特に、戦後に営々と築かれてきたフランス社会モデルが大きな曲がり角に来ていることについての知識と情報を得ることができた。2007年大統領選挙で、サルコジは原稿の経済社会のあり方を選挙の重要な争点にしていたが、そのようなフランス社会で進行しつつある根本的な変化が、サルコジを大統領に押し上げる力として働いていた。 グローバル化のなかでフランス経済の効率化・合理化、フランス社会モデルの革新を求めるサルコジの言説と政策は、福祉政策の見直しや労働力と技術力として有益な外国人労働力を選別する移民政策に象徴的に表現されているが、それはドゴールに始まるこれまでの保守の社会的配慮と社会統合を優先する発想とは異質なものである。一年目は、フランス社会モデルの変容について予備的な研究を行ったが、2年目は、サルコジのパーソナリティや彼を大統領へと押し上げた政治的・社会的背景に焦点をあてて研究することで、2000年代に入って明らかになってきた保守内部のイデオロギー的・政策的対立と力関係の変化を踏まえて、フランス保守が経験しつつある変容の意味を明らかにする作業に取り組んでいく。
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