社会保障の負担と給付における世代間格差は、福祉国家の基盤である社会連帯を掘り崩しかねない潜在力をもつ。昨今、社会的な関心も高まりつつあるが、日本においてはこの世代間の潜在的な対立を「政治」の問題として理解し研究する努力はまだ乏しいといわざるを得ない。これまで、ジェンダーや少子化の観点から福祉国家研究に従事してきた私は、とりわけ近年、福祉と世論についての研究を進め、信頼や連帯といった価値が福祉国家の維持・発展にとって重要であることを認識するにいたった。研究計画書に書いたとおり、この点をめぐっては、実際の福祉政策や福祉国家の構造と人びとの認知、すなわち世論の次元との両方向からのアプローチが必要となる。 1年目にあたる2010年度は、私の従来の研究の延長で、福祉と世論についての研究を継続しつつ、その中で連帯の価値などを探るとともに、今後のより具体的な分析に向け、既存の世論調査のデータベース化を進めた。また、その一部については「福祉政治と世論」という形で2011年度に発表される原稿にまとめている。 他方、福祉国家の構造の次元に関しては、やはり従来から引き続いてジェンダーの視点を重視した福祉政策研究を行った。その点では、初めて「ジェンダー」をテーマとした比較政治学会の共通論題で報告したことや、女性政策のグローバルな展開についての論文を発表したことが、2010年度の成果である。 ただ、世代に固有の問題については、これらの作業を通じていくらか触れてはいるものの、主には2011年度以降の課題となる。
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