本研究は、民営化や政府組織の市場化などの政策変容(「公-私」関係領域の変化)におけるアカウンタビリティの範囲や実効性についてイギリスの年金・医療改革を事例に、その理論的枠組みを構築することを目的とする。初年度である平成22年度では主として2つの研究課題について研究を実施した。第1の課題は、政策アカウンタビリティの現在の研究動向を整理し分析することである。特に「政策変容」におけるアカウンタビリティの諸理論に重点をおき、民営化政策やEU統合の政策過程におけるアカウンタビリティの分析枠組みについて考察した。第2の課題は、事例研究の対象である1980年代以降のイギリスにおける年金制度改革と医療制度改革に関する資料を現地にて収集し分析することである。年金制度改革については、1980年代から90年代の保守党政権期における「年金の民営化」政策に関する政府公文書の他に、主要な団体(15団体)の当時の意見書を収集し、政府の政策案に対する利害関係について整理し分析を行った。一方、医療制度改革については、90年代以降の保守党政権および労働党政権におけるそれぞれのNHS医療制度改革(内部市場化の政策比較)に関する資料を収集しその分析を行った。これらの課題の他に、2010年5月のイギリスの総選挙における二大政党制から連立政権への政党政治の誕生は政策過程やアカウンタビリティに変化をもたらした。このイギリス政党政治の変容について分析し、その1部を書籍にて発表した。
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