本年度は主として次の3つの計画を実施した。第1に、1990年代以降における医療の市場化政策というアイディアの創出および政策形成に関与した個人や組織を抽出し、それらの政策ネットワークについて分析を行った。具体的には2000年以降の労働党政権における医療市場化政策を推進した政治家、官僚そして関連団体による医療政策ネットワークについて考察した。第2に、2012年の「医療ソーシャル・ケア法」の成立によるアカウンタビリティの概念の変容について分析した。2010年の総選挙によって成立した保守党と自由党の連立政権は、同年7月に医療制度改革の白書『公平と卓越:NHSの自由化』を公表し、翌年1月に議会に法案を提出した。しかしながら幅広い関係者や団体からの批判により法案の修正を余儀なくされ、2012年3月にようやく「医療ソーシャル・ケア法」が成立した。この医療ソーシャル・ケア法の立法過程および医療制度改革について分析し、アカウンタビリティの有用性と範囲について考察した。医療ソーシャル・ケア法の成立により、官僚組織の介入が制限される一方、第一線の医療組織への権限委譲、組織の自律性の確保、競争原理の導入と市場規制機関の設置など、医療分野の市場化政策が行われた。これらの制度改革の分析から、本研究では、アカウンタビリティが政治的(大臣の)アカウンタビリティ(内部機関からの監視・統制)からリーガル・アカウンタビリティ(外部機関からの監視)の視点へとシフトしたこと、また多様な組織の参加によって複雑なネットワークが形成されたことにより、アカウンタビリティが不明瞭になっていることを明らかにした。この医療制度改革におけるアカウンタビリティの変容については、論文にて公表する予定である。第3に、年金制度改革を事例とした政策変容とアカウンタビリティについて考察した学術論文を公表した。
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