平成24年度には、ヘーゲル政治哲学の研究に関連して、前年度に引き続き、ヘルマン・ヘラー『ヘーゲルとドイツにおける国民的権力国家思想』の翻訳に携わり、当該著作第三部の翻訳を学部紀要に発表した(『大東法学』第二二巻、第一号、第二号、2013年3月31日発行)。完結した翻訳は、平成25年6月に風行社から刊行する予定である。この刊行書にはヘラーのヘーゲル的「国民的権力国家思想」解釈に関する解題(「ヘラーの処女作におけるヘーゲル・モティーフ」)を付した。ここでは、初期ヘーゲルにおける「権力国家思想」を構成する諸概念を分析・解明するとともに、それが後期ヘーゲルの「客観的精神の哲学」において、どのように展開され、かつ再構成されているか、これについて検討した。 この間、ヘラーのヘーゲル解釈を検討するに際して、ヘラーがかれのこの教授資格論文における立論の前提にしているマイネッケ『世界市民主義と国民国家』及びギールケ『ヨハネス・アルトゥジウス』に関連して、ナショナリズムとコスモポリタニズム、有機体論、団体論などの諸問題の検討にも携わった。今後、ヘラーのヘーゲル解釈との関連で、ドイツの帝政期、共和制期におけるディルタイ、リット、スメントなどのヘーゲル解釈も検討するつもりである。ここでのヘーゲル政治哲学の研究の眼目は、どのようにして、ヘーゲルの「国民的権力国家」論は、近代自然法的国家論あるいは契約国家論を揚棄し、後者における普遍主義と特殊主義、客観主義と主観主義、これらの対立併存を、理論的に克服しようとしていたのか、これを見極めることにある。 今年度の研究成果も踏まえて、研究課題「正義と自立あるいはプラトンとヘーゲルの政治哲学」に関する著作の刊行を目指していきたい。
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