『マキャベリ的知能』とは、人間関係において自己利益を追求し、その結果生存競争に勝つための能力であり、例えば自分を実力以上に見せ相手を威嚇する能力(及びその威嚇を見抜く能力)、嘘をつく能力(及びその嘘を見抜く能力、更には嘘を見抜かれた後再び上手な嘘をつく能力)、誰を信頼すべきかという選択・洞察力(及びその信頼又は不信を予見し行動をとる能力)等である。 本来ならば、マキャベリ的知能と自己犠牲とは相容れない関係にあると考えられるものであるが、自身が行ったコンピュータ・シミュレーションによる研究結果から、両者がむしろ補完しあう関係であることが分かっている。つまりマキャベリ的知能が発達する過程において、相手のうそを見抜く能力がうそをつく能力を上回るという条件等が整えば、人間は血縁関係がない相手に対しても、自己犠牲が可能な動物であることが確かめられた。これは、N人で構成する囚人のジレンマあるいは公共財といった状況において、協力関係を築きあうことができることを示唆している点で重要である。 本研究の重要なテーマは太平洋戦争における自己犠牲の可能性の研究であったが、1945年において神風特攻隊員が残した遺書、手紙、詩歌等の6百あまりのコンテンツ分析を行ったところ、確かに危機的状況では集団のために自分の生命を犠牲にできる可能性が高いことを示唆する仮説が提示できることが分かり、一つの論文(An Evolutionary Account of Suicide Attacks: The Kamikaze Case. Political Psychology. 2011)としてまとめることができた。 また、上記のアプローチの根幹となっている「進化政治学」を、わが国の政治学に対して図書(『生き延びるための政治学』)という形で普及に努めた。
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